岸見一郎・古賀史健 著 · 2013
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人はふつう、いまの自分を過去の出来事の結果として説明します。アドラー心理学はこの原因論を退け、人は現在の目的に沿って感情や行動を選んでいると考えます。これが目的論です。たとえばカッとなって怒鳴るのは、怒りに支配されたからではなく、相手を屈服させるという目的のために怒りをつくり出し、使っているのだと哲人は説明します。過去は変えられなくても、その意味づけと、これからの選択は自分で変えられます。
実践のヒント 最近イライラした場面を一つ思い出し、その感情で何を得ようとしていたかを考えてみましょう。
アドラー心理学では、世界や自分をどう見るかという考え方と行動の傾向を「ライフスタイル」と呼びます。性格に近い言葉ですが、自分で選んだものなので、選び直すこともできます。それでも人がなかなか変われないのは、慣れたやり方にとどまるほうを自分で選び続けているからだと哲人は指摘します。足りないのは能力ではなく勇気です。アドラー心理学が「勇気の心理学」と呼ばれるのはそのためです。
実践のヒント 変えたいのに続けている習慣を一つ選び、それを続けることで得ている安心を書き出しましょう。
ひとりで抱えているように見える悩みにも、必ず他者の存在が関わっています。アドラー心理学はそう考え、あらゆる悩みの根に対人関係を置きます。劣等感そのものは、理想の自分と比べて成長しようとする健全な感覚です。問題になるのは、劣等感を言い訳にして課題から逃げる劣等コンプレックスです。仕事、交友、愛という三つの「人生のタスク」から口実を並べて逃げることは、「人生の嘘」と呼ばれます。他者との競争から降り、理想の自分に向かって進むことが勧められます。
実践のヒント 誰かと比べて落ち込んだら、比べる相手を理想の自分に置き換えてみましょう。
人に認められたいと思うのは自然なことですが、アドラー心理学は承認欲求をはっきり否定します。承認を求め続けると、他者の期待を満たすことが目的になり、いつの間にか自分の人生を生きられなくなるからです。ほめられるから頑張るという動機づけにも否定的です。ほめてくれる人がいなければ動けなくなり、何をするにも他者の評価が基準になってしまうからです。
実践のヒント 今日の行動を一つ選び、誰にも認められなくてもそれをするかを自分に問いかけましょう。
本書の中心にある考え方が「課題の分離」です。うまくいってもいかなくても、その結果を最後に背負うのは誰かを問い、自分の課題と他者の課題を分けます。子どもが勉強するかどうかは親ではなく子どもの課題で、無理にやらせれば他者の課題に踏み込むことになります。本書は、対人関係のトラブルはすべてこの踏み込みから生まれると考えます。相手が自分をどう思うかも、相手の課題です。嫌われる可能性を恐れずに自分の生き方を選ぶこと、それが哲人のいう自由であり、タイトルの意味もここにあります。
実践のヒント 悩んでいる人間関係を一つ選び、どう転んでも、その結果を最後に背負うのは誰かを書き出しましょう。
アドラー心理学は、上下の評価で人と接する「縦の関係」をやめ、対等な「横の関係」を築くよう勧めます。叱ることだけでなく、ほめることにも反対するのはそのためです。ほめるのは、能力のある人がない人に下す評価で、縦の関係を前提にしているからです。代わりに勧められるのが「勇気づけ」で、感謝や喜びをそのまま言葉にして伝えます。人は自分が誰かの役に立てていると感じたときに、踏み出す勇気を持てると考えるからです。
実践のヒント 誰かをほめたくなったら、評価の言葉の代わりに感謝を伝えてみましょう。
アドラー心理学が対人関係の到達点に置くのが、共同体感覚です。周りの人を競争相手ではなく仲間として受け止め、自分もその輪の一員だと実感できる状態を指します。そこへ至る道として挙げられるのが、自己受容、他者信頼、他者貢献の三つです。つまり、できない自分をありのまま受け入れ、条件をつけずに他者を信じ、仲間のために行動することです。貢献は目に見える形でなくてもよく、自分は役に立っていると主観的に感じられれば、それが幸福(貢献感)だとされます。勧められるのは、人生を目的地までの道のりとは考えず、「いま、ここ」を真剣に生きる一瞬一瞬の積み重ねと捉える姿勢です。迷ったときの「導きの星」は、他者貢献です。
実践のヒント 寝る前に、今日誰かの役に立てたことを一つ書き留めましょう。
各行に一つずつテーマを置き、よくある考え方と、アドラー心理学が示す考え方を並べました。
| テーマ | よくある考え方 | アドラー心理学の考え方 |
|---|---|---|
| 過去と現在 | 原因論過去の出来事が、いまの自分を決めている。 | 目的論人はいまの目的に沿って、感情や行動を選んでいる。 |
| 劣等感 | 劣等コンプレックス劣等感を言い訳にして、課題から逃げる。 | 健全な劣等感理想の自分と比べ、成長のきっかけにする。 |
| 他者の評価 | 承認欲求認められるために、他者の期待に沿って生きる。 | 課題の分離結果を最後に背負うのは誰かを問い、他者の課題には踏み込まない。 |
| 人との接し方 | 縦の関係ほめたり叱ったりして相手を評価し、動かそうとする。 | 横の関係対等な立場で接し、感謝を伝えて勇気づける。 |
| 自分との向き合い方 | 自己肯定できないのに、できると自分に言い聞かせる。 | 自己受容できない自分を、ありのまま受け入れる。 |
| 他者の信じ方 | 信用対人関係でも、条件や担保をつけて相手を信じる。 | 信頼条件をつけずに他者を信じる。 |
| 人生の捉え方 | 線として見る目的地にたどり着くまでの道のりと考える。 | 点の連続として見る「いま、ここ」を真剣に生きる瞬間の積み重ねと考える。 |
本書のいう幸福: 他者に貢献しているという主観的な感覚(貢献感)のこと。自己受容、他者信頼、他者貢献の三つが、共同体感覚とこの幸福へ向かう道筋です。
読み返すより、思い出すほうが記憶に残ります。答えを見る前に考えてみましょう。
原因論に対して、アドラー心理学が採る立場は何ですか?
目的論。
人は過去の原因ではなく、いまの「目的」に沿って行動や感情を選んでいる、と考えます。
本書によれば、すべての悩みは何の悩みですか?
対人関係の悩み。
一見ひとりで抱えている悩みにも、必ず他者の存在が関わっている、と考えます。
ある課題が誰の課題かを見分けるには、何を問えばよいですか?
その結果を最後に背負うのは誰か。
たとえば子どもが勉強するかどうかは、親ではなく子どもの課題です。
本書によれば、幸福とは何ですか?
「自分は誰かの役に立っている」という貢献感。
目に見える貢献でなくてもよく、主観的に貢献感を持てれば十分だとされます。
読む価値は十分にあります。対話形式なので予備知識がなくても読み進められ、人間関係の悩みを見直すきっかけになりますが、主張が強めなので、自分の状況に当てはめて吟味しながら読むのがおすすめです。